大人のピアノ
四季録


 最近「大人のピアノ教室」の案内をよく見かける。
 実際、大人になってからピアノを始める人が増えている。私のところへもいろいろな方がレッスンに来られている。そのタイプを三つに分けてみる。
 一つは自己楽しみ型。小さいときに習っていたが、練習が嫌だったり、先生が怖かったりで止めてしまった。でも、大人になってまた弾きたくなった。今度はクラシックじゃなくてジャズやポピュラーを弾きたい、という人。20代の女性が多い。一つは一曲成就型。ピアノを弾ける男はかっこいい。一曲弾けるようになってもてたい、というちょっぴり不純型。30代から40代の男性。一つはリハビリ型。指先を使っているとボケ防止になるから、と始める人。60才前後。
 今回はその一つ目について。私は四才の時からピアノを始め(させられて)た。親は戦争を体験した世代である。自分がしたくても出来なかった夢を子供に託したい、という気持ちもあったと思う。毎日つきまとう練習に嫌気がさし親を恨んだこともあった。親の熱心な協力のお陰で今の私がある。感謝している。
 音大へ進学する目的などがなければ、多くは中学へ上がるころか、高校受験前にピアノのお稽古は止める。でもピアノを弾くという技術は普遍である。チェルニー30番がよく基準として挙げられるが、チェルニー30番を終えた人だと復帰は楽である。譜読みに苦労がなく、技術上ある程度のものは弾ける。今はいろいろな曲がピアノ用にアレンジされて売られているので、それをそのまま演奏して楽しむことが出来る。
 今まで身につけた技術で楽譜が美しく弾けたという達成感を得る。それで充分。それでもいいのだが、ポピュラー演奏にはもう一つの楽しみがある。私としてはそれも味わってもらいたい。ポピュラー音楽ではコードネームが用いられる。和音の記号である。メロディにコードネームがついただけの簡単な譜面を自分なりにアレンジして弾いていく。偉大な作曲家が書いた通り弾かなければならない、なんていう規制はない。私はジャズを始めたとき、コードを使うことで自由になり、ピアノを弾くのが楽しくてたまらなくなった。せっかく楽しくピアノを弾きたいと始めたのに、楽譜通りに弾くことに満足にするなんてもったいない。是非、この楽しい世界に入ってきて欲しい。

栗田敬子  ジャズピアニスト